壱角家に見る「どこで勝負するか」の明確化

〜診断士が読み解く、外食チェーンの生存戦略〜
壱角家でラーメンを実食しました。

壱角家のラーメン(実食写真)
味の印象としては、家系としてはややマイルドで、人気店に見られるような“パンチ”や“深み”は控えめです。
ただし、壱角家の真価は味の濃淡ではなく、「どこで勝負するか」を明確にした経営モデルにあります。
職人技ではなく、再現性とスピードで勝負
一般的な家系ラーメンは、豚骨を長時間炊き上げ、店主ごとの技術で味を作り上げます。
対して壱角家では、中央工場で作られたスープを店舗で仕上げる方式を採用。
誰でも同じ味を再現でき、仕込み時間も短縮。
私が訪れた際は、キャンペーンで割引デーのお昼時にも関わらず2名でお店を回していました。少人数でも店舗運営できるオペレーションが確立されています。
この「誰でも作れる仕組み」は、カンブリア宮殿(2025年3月13日放送)で紹介された通り、運営元ガーデンが掲げる経営哲学そのもの。
属人的なスキルに頼らず、教育コストの低減・採用難対策・出店スピードの維持を同時に実現しています。
味ではなく、経営効率で勝負
高評価を得る店の多くは、具材やスープ、調理法への「こだわり」で差別化しています。
壱角家はその真逆を行きます。
- スープは工場で統一
- オペレーションはマニュアル化
- 店舗は居抜き物件を活用
- キャンペーンで定期的に集客(壱角家の日650円、感謝祭680円)
つまり、“味”ではなく“効率”で勝負する戦略。
壱角家は他店と比べれば明らかに手が届きやすい価格設定です。
この物価高の時代に、ここまで価格を抑えられるのは、並々ならぬ企業努力の結果と言えるでしょう。
これは単なる合理化ではなく、「自社がどの領域で優位に立つか」を明確に定義した結果といえます。
ドメイン(勝負領域)の明確化
診断士的に見れば、壱角家は自社ドメインを「職人系ラーメン市場」ではなく、
「再現性と拡張性を重視したチェーン型ラーメン市場」に設定しています。
味の個性ではなく、どこでも同じ品質・同じ価格で食べられる安心感を価値として提供。
これは差別化戦略ではなく、集中戦略(どこで勝負するかを絞る)に近い発想です。
まとめ:壱角家の教訓
壱角家の成功は、「味では勝てない」と割り切ったうえで、
- 標準化による再現性
- 省人化による生産性
- スケール化によるコスト優位
この3点に経営資源を集中したことにあります。
企業経営も同様で、「すべてで勝とうとしない」ことが生き残りの条件です。
ラーメン業界の中で壱角家が示すのは、まさに”自社がどこで秀でるかを決める勇気”の重要性です。

