中小企業診断士の養成課程は倍率が上がった?近年の推移と今後を考察

中小企業診断士の養成課程について、以前より「入りにくくなった」という話を聞くことが増えました。
私自身、養成課程を経験していますが、周囲には1年目の養成課程受験では不合格となり、翌年再挑戦して合格した人も複数います。
では、実際に養成課程の倍率は上がっているのでしょうか。
今回は、1次試験・2次試験の合格者数の推移や、実際に応募状況を公表している養成課程のデータをもとに考えてみます。
コロナ禍に1次試験の合格者が急増した
まず注目したいのが1次試験です。
2019年度以降の合格者数と合格率は、以下のように推移しています。
| 年度 | 1次試験合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|
| 2019年度 | 4,444人 | 30.2% |
| 2020年度 | 5,005人 | 42.5% |
| 2021年度 | 5,839人 | 36.4% |
| 2022年度 | 5,019人 | 28.9% |
| 2023年度 | 5,560人 | 29.6% |
| 2024年度 | 5,007人 | 27.5% |
| 2025年度 | 4,344人 | 23.7% |
出典:日本中小企業診断士協会連合会「中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移」
特に2020年度は合格率42.5%、2021年度も36.4%となり、1次試験合格者が5,000人を超えました。
もちろん、「コロナ禍だったから1次試験が簡単になった」と因果関係まで断定することはできません。
ただ、コロナ禍と重なる時期に1次試験合格者が大きく増え、2次試験や養成課程へ進むことのできる人が増えたことは事実です。
一方、直近では2024年度5,007人、2025年度4,344人と減少しています。
2次試験の合格率はほとんど変わっていない
では、その間の2次試験はどうだったのでしょうか。
| 年度 | 2次試験受験者数 | 最終合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2019年度 | 5,954人 | 1,088人 | 18.3% |
| 2020年度 | 6,388人 | 1,174人 | 18.4% |
| 2021年度 | 8,757人 | 1,600人 | 18.3% |
| 2022年度 | 8,712人 | 1,625人 | 18.7% |
| 2023年度 | 8,241人 | 1,555人 | 18.9% |
| 2024年度 | 8,119人 | 1,516人 | 18.7% |
| 2025年度 | 7,044人 | 1,240人 | 17.6% |
出典:日本中小企業診断士協会連合会「中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移」
1次試験の合格者が増えた一方で、2次試験の合格率はほぼ18%前後で推移しています。
2次試験の最終合格者数自体は増えていますが、それ以上に受験者数が膨らみました。
実際に養成課程の応募者も急増した
養成課程全体について、全国の倍率をまとめた公的な統計はありません。
そこで一例として、過去の応募状況を公表している大阪経済大学の中小企業診断士登録養成課程を見てみます。
| 開講期 | 応募者数 | 合格者数 |
|---|---|---|
| 2019年 | 46人 | 24人 |
| 2020年 | 65人 | 24人 |
| 2021年 | 71人 | 24人 |
| 2022年 | 116人 | 24人 |
| 2023年 | 82人 | 24人 |
| 2024年 | 78人 | 24人 |
| 2025年 | 68人 | 24人 |
| 2026年 | 58人 | 24人 |
出典:大阪経済大学「中小企業診断士登録養成課程 FAQ・過去の選考状況」
2022年開講期では、24人の合格者に対して116人が応募しています。
応募者数を合格者数で単純に割ると、約4.8倍です。
2019年の応募者46人と比べると、わずか数年で2倍以上に増えています。
1次試験合格者が増え、2次試験受験者が急増した時期とほぼ重なっている点は興味深いところです。
少なくとも、この養成課程については、「一時期、養成課程の競争がかなり激しくなった」という感覚は数字にも表れていると言えます。
これは同時期に養成課程の試験を受けた私の肌感覚と合っています。
余談ですが、某養成課程の試験で5人定員(全3回募集のうちの1回)のところ50人程度集まった回がありました・・・
以上から、1次試験合格者や2次試験受験者の急増ほどには、2次試験の門が広がらなかったため、養成課程の倍率が増えた可能性は一定程度説明がつくと思います。
ただし、近年は倍率が落ち着いてきている
一方で、現在も養成課程の倍率が上がり続けているわけではありません。
大阪経済大学の応募者数は、2022年の116人をピークに、
116人→82人→78人→68人→58人
と減少しています。
1次試験についても、2021年度の合格者5,839人に対して、2026年度は4,099人です。
そのため私は、
「養成課程の倍率が上がり続けている」わけではなく、2021~2022年前後に一度大きく競争が激化し、その後は徐々に落ち着いてきている
と見るのが実態に近いと思っています。
では、なぜ一時期増えた養成課程の応募者が、近年減少しているのでしょうか。
なぜ養成課程の応募者は減ってきたのか
ここからは、養成課程の応募者減少について直接的な原因を示した統計があるわけではありません。
あくまで、周辺環境の変化を踏まえた私なりの見立ても含みます。
1次試験合格者そのものが減っている
まず最も分かりやすいのが、養成課程に応募できる母数の変化です。
2021年度には5,839人いた1次試験合格者が、2026年度には4,099人まで減っています。
養成課程は1次試験合格者が進むことのできるルートです。
そのため、入口となる1次試験合格者が減れば、養成課程の応募者にも一定の影響が出ると考えるのが自然です。
コロナ禍では補助金支援で診断士が注目された
もう一つ考えられるのが、コロナ禍当時の中小企業支援策です。
代表的なものが、事業再構築補助金です。
事業再構築補助金には、2020年度第3次補正予算として1兆1,485億円が計上されました。
また、当初の補助対象要件では、事業計画を認定経営革新等支援機関等と策定することが求められていました。
認定経営革新等支援機関は、中小企業に対して専門性の高い経営支援を行う機関として国が認定する制度です。
中小企業診断士も、専門的知識を有する資格者として認定対象に含まれています。
コロナ禍では、こうした補助金や事業計画策定支援の需要が急増しました。
その結果、「中小企業診断士」という資格や、中小企業支援の仕事そのものが現在以上に目立ちやすい環境だったのではないかと思います。
生成AIによって「資格」の見え方も変わってきた
もう一つ考えられるのが、生成AIの急速な普及です。
数年前までは、「AIに代替されにくい専門職」という文脈で専門資格を取得することに魅力を感じる人も多かったと思います。
しかし、ChatGPTをはじめとした生成AIが普及した現在、状況は変わりつつあります。
情報収集、データ分析、資料作成、事業計画のたたき台作成など、従来コンサルタントが行っていた業務の一部は、生成AIでもかなりのところまで対応できるようになりました。
一方、生成AIで「戦略コンサル」は淘汰されるか?で述べた通り、現状生成AIには「経営者の感情や覚悟に寄り添うこと」は難しい領域であると考えます。
そのため、中小企業診断士がAIによって不要になるという話ではありません。
ただ、
「専門資格を取れば、それだけでAIに代替されにくい」
という分かりやすい資格の魅力は、数年前より弱くなっているのかもしれません。
行政書士法改正など補助金支援を取り巻く環境も変わった
さらに2026年1月には、改正行政書士法が施行されました。
今回の改正では、行政書士または行政書士法人ではない者について、「他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」官公署提出書類などを作成することに関する業務制限の趣旨が明確化されました。
また、違反に対する両罰規定も整備されています。
出典:衆議院「行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)」
日本行政書士会連合会は、この改正の背景について、コロナ禍に行政書士ではない者が給付金等の代理申請を行い、多額の報酬を受け取っていた事例があったことを挙げています。
出典:日本行政書士会連合会「行政書士法第19条第1項及び第23条の3の改正の趣旨等について」(2025年11月1日)
もちろん、今回の改正によって、中小企業診断士が経営相談や補助金に関する事業計画策定支援を行えなくなったわけではありません。
また、行政書士法改正によって養成課程の応募者が減った、という直接的なデータもありません。
ただ、コロナ禍に「補助金支援」が中小企業診断士の仕事として大きく注目された時期と比べると、資格取得後の仕事を取り巻く環境は変化してきています。
こうした変化も、中小企業診断士資格に対する見え方に何らかの影響を与えている可能性はあると思います。
「倍率が下がった=簡単に入れる」ではない
ここまでを見ると、養成課程の競争は2021~2022年前後をピークに、少しずつ落ち着いてきているように見えます。
ただし、
「倍率が下がってきたから、養成課程には簡単に入れる」
と考えるのは危険です。
実際に選考で不合格になる人はいます。
私の周囲にも、養成課程を受験して1年目は不合格となり、翌年もう一度受験して合格した人が複数います。
また、養成課程の場合、1次試験合格後の限られた期間の中で出願する必要があります。
「2次試験に落ちてから考えよう」と後回しにしていると、受けたい養成課程の出願時期や選考スケジュールとの関係で、選択肢が狭くなる可能性もあります。
養成課程を少しでも考えているのであれば、倍率の高低にかかわらず、早い段階から各養成課程の募集時期や選考内容を確認しておくことをおすすめします。
倍率だけを見て進路を決めるのではなく、
「自分は何のために中小企業診断士を目指しているのか」
という目的から、2次試験と養成課程を比較することが重要だと思います。
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2次試験と養成課程のどちらを選ぶべきか迷っている方は、こちらの記事も参考にしてください。
